ねじれそうになる頭は、美容師さんのふっくらした手によって、真っ直ぐに戻される。

だって、私はこの前失恋したばかりって言うのに――。

「わざわざ、ここまできてヘアカラーの指定までことこまかにする彼氏なんて初めて見たわー」

……そんな束縛系男子を『優しい』と称する美容師さんのセンスに軽く脱帽。

しかも、もう「付き合ってる」前提で話すすめちゃってるし。
あんな彼氏、絶対にお断りよ。

これは、暇つぶしの気まぐれゲームに負けて、私がヒコの指定どおりに髪を切ることになっただけなんだから。
……私が勝ったら絶対にヤツの黒髪を金髪に変えてやろうと思っていたのに。

「いいなー、あんな人と付き合えるなんて。ねぇ、あんなイケメン、どこで捕まえたの?」

ちらり、と、美容師さんの視線が暇そうに受付あたりの席に座って雑誌を眺めているヒコに移る。

「大学で」

面倒になったので、付き合ってないと説明する労力を惜しんでしまう。

(次ページへ)