「でも、これはあたってるでしょ?
 ねぇ、お兄ちゃんって私と結婚してくれるんだよね?」

これ以上ないほど、極上の無邪気な笑みを、彼女はその顔に浮かべて俺をのぞきこんでくる。

――本当に。
 彼女を、こんな世界に巻き込んで良いのだろうか――。

その無垢な笑顔を曇らせるのが、俺の役目なのだろうか――。

「お兄ちゃん?」

答えない俺に、都さんが困ったような目をむける。
彼女にただ、笑ってほしくて、俺は適当なことを言う。

「ええ、当たり前じゃないですか」

蕩けるような笑顔を浮かべる都さんを、抱き上げて部屋に連れて行く。


本当に、願いが叶うなら。
こんな家、捨てて、君と二人で平和に暮らしたいのに――。

叶うはずも無い、夢物語がちらりと頭を過ぎっていく。
それでも。
心からのそんな思いをこめて、俺の悩みになど気づいて無いであろう、彼女の唇に甘いキスを落とした。

Fin.