「まったか?」
「うーうんっ、今来たとこー」
「そっか、んじゃ行くで」
「はーいっ」


校門の隣で本当は、一時間も待った。
妃くんはとても人気があるから、帰宅部なのに放課後は色々と忙しいみたい。
だからね、少しでも妃くんが気を使わないでいいように、呆れられないように、「いい子」になるんだ。
じゃないと……妃くんは、居なくなっちゃうんだ、私の隣から……


「そーや、妃くんやなくて……名前で呼んで」
「え」
「名字で君づけ……他人みたいやん?」
「う、確かに」
「……なら呼んで」
「……こ、こここ……っ」
「ぶっ、あはは」
「ちょ、どうして笑うの!」
「だって鶏みたいやし」
「に、鶏……」
軽くショック。
酷いよ、妃く……じゃなくて、こ、光陽くん……
「可愛いなあ、雨月は」
ドキっ
名前を呼ばれ、高鳴る鼓動、熱をもつ体。
「……こ、うよ……くん」
「何や?」
「わ、私」
「ん?」


光陽くんの特別な女の子になりたい。


「やっぱり何でもないや」
「そうか」
ちらりと、光陽君の横顔を盗み見る。
夕日のせいか、ほんのり赤い頬。
思わず緩む、頬の筋肉。
「何笑ってんの」
「別にっ」
「見んなや、恥ずかしい……っ」
可愛い、光陽君が照れてる。
そんなことを考えている間に、私の家の前に着く。
「んじゃ、またな」
「うん、バイバイ、また明日」


夕日の沈みかけた真っ赤の道へ向かって歩く光陽君を私はただ見つめていた。
「また、明日……か」
ぼんやりと呟く言葉。
明日は光陽君、誰と帰るんだろ?


ダメだ……悲しくなってきた……
溢れ出しそうな涙をひたすらこらえ、真っ赤に染まった夕日をみていた。