下弦の月が空に浮かび、宵闇を青く見せる夜…。

命は月を見上げながら、その髪を金色に変えて優雅に風になびかせていた。

うっすらと彼女を包み込むように光り輝く霊気の帯は、よくよく見ると九本の尾の様にも見える。

その場に誰か居たのならば間違いなく目を奪われるであろうが、生憎付近に人間の気配は無く、まるで一枚の絵のように静かな時だけが流れていた…。


「やはり私の妖力では彼には太刀打ち出来そうにないわね…。」


そう呟くと同時に、命は元の黒髪へと姿を戻した。


「…坊や達はどう考えているのかしら?状況はすでに分かっているとは思うけど…。
残り一つの神器を奪われたらすべてが終わる。
そう考えるのが普通よね。…でも違う…。」


命は月から目線を下げると、少しだけ憂いに満ちた眼差しで遠くを見つめた。


「坊や達は神界というものを知らない…。八百万の神々達の集まる百鬼夜行。
それが意味するものは天岩戸を開くためだけのものではない。」


命は考えていた…。
この長い年月で自分が知り得た情報は、決して無駄ではなかったと。

私利私欲を尽くし、破壊と傲慢を糧としてきた鵺。
平安の時より眠りについたまま自らの存在を復讐と重ねる酒呑童子。

千年以上存在する妖怪達の中ですら、神界に興味を持っていたのは命だけだったからだ。