振り返り

『あっ、おかえり……。

えぇ…っと、さっきたまたま玄関で
紙袋を見つけてね。

その中に…何かな~ってのぞいたら
この服が入ってて。

誰のかな?って

…女って一応俺しかいないし、

今日は俺の誕生日だったし、

それならちょっと着ちゃおうかなぁって
…………。

あっ、このサンダルはハルがくれたやつ
なんだけどね。

これ……櫂が?』

あまりに同様して支離滅裂になってしま
った。


「似合ってるよ。」

『うそっ……本当に?ハァ~でも、もう気が
済んだから。』

一刻も早くこの場所から逃げ出したくなった。

サンダルを脱ぎ、足早に歩き段差をあがる。

櫂の前を通りすぎようとすると


(えっ……?)


櫂に抱きしめられていた。

トックン―――

櫂の腕はすっぽりと俺の体を優しく包み
こむ。

その手は簡単に振りほどけるけど……

そうはできなかった。


『櫂…どうしたの?』

と聞く俺に

「ごめん…ちょっとこのままで……」

櫂の声が少しおかしい。

『うん。』

としか言えなかった。



何かあったんだってことがすぐにわかっ
たからでなきゃ櫂は俺を抱きしめたりし
ない。



そしてそれが俺の大事なものを奪ってい
くなんてその時はまだ気づいてもいなかった。