ことばのスケッチ

(3)錯  覚
「最後の審判って知ってる?」と私が言い、
「最後の晩餐なら知ってるけど」と彼は応える。そして、彼は
「それは何だね」
「イエスキリストが、最終的な審判を下すんだ。しかも容赦なく。天国へ行く者と地獄に落ちる者をね」
「そりゃ又凄いね。ことばの言い回しは違うけど、イエスの『はじめにことばあり』には、罪を憎んで人を憎まずも包含されているよ。悟りを開いたイエスが?」
「そうなんですよ」
「なるほど、権力に従う者は天国へ、逆らう者は地獄へって訳か!」と言いながら、彼は腹を抱えて笑いこけた。
「もっと具体的なものがあるよ」
「何が?」
「ノートルダム寺院の扉の入口に、天秤の彫刻がある」
「うん、それで?」
「天国側に傾くか?地獄側に傾くか?」
「『もとより賢愚得失の境に居らざればなり』の場合はどうなるかね」
「天秤は水平を保つだろうよ。罪を憎んで人を憎まずの場合も、天秤は水平だね」
「天国と地獄を天秤にかけた場合はどうなるかね」
「イエスの天秤と兼好法師の天秤であれば、これも水平だね」
「イエスも、兼好法師も審判はできないってわけだ」
「イエスも困るだろうね」と言いながら、ブランデーコーヒーを飲み、タバコを吹かしながら、二人は暫く腹を抱え涙を流して笑いこけた。