ことばのスケッチ

「一人が言ったね『例え耳、鼻こそ切れ失すとも、ただ力を立てて引きたまえ』命が助かるなら、耳や鼻がちぎれてもかまわない、ただ力の限り引っ張れ」
「周りの人が恐ろしいことを言っておっても本人には聞えないんだからな」
「藁しべを首の周りから差し込んで、首がちぎれんばかりに引っ張ったら、耳も鼻も引きちぎれてやっと壺が抜けたんだ。命は助かったけど、『久しく病みいたりけり』」
「調子に乗ったばっかりに、こんな病見たことがないって医者にも見放され、とうとう病に伏してしまった。今の政治家にあることだよ。それこそつれづれを感じる人がね。酒宴ことさめて、簡潔でいいことばだな。くぐもり声にて聞えずか。政治家や、胸を反らせている偉い人にぴったりだね。こんな病は医学書にも書いてないし、教えもない。今の医学そのものかも。何せ心の病を直すマニュアルは無いからな。それこそ異様なりけめさ」
 二人は腹を抱えて笑った。ママさんが二人の様子を見てやってきた。
「随分面白そうですね」
「そうなんですよ」
「どんな話なんですか?」
「徒然草の話なんです」
「まあ、難しそうですね」と言って、ママさんは忙しそうに仕事に戻った。
「三十八段を読んだかね」と彼に尋ね、
「覚えてないね」と彼が応える。