ことばのスケッチ

「学生のころ読んだよ」
「五十三段は面白いね」
「どんな話?」
「寺の稚児がいよいよ坊主になると言う酒宴の席で、余興するんだよ」
「それで?」
「そばにあった壺のようなものを被るんだ『鼻をおしひらめて、顔を差し入れ』鼻を押し倒して無理やり被るんだな」
「それで?」
「『舞いでたるに』壺を被って面白おかしな仕種をして登場するんだ」
「うん、それで?」
「『満座興に入ること限りなし』皆拍手喝采をしてはやしたてるんだよ。一杯やりながら。この表現、簡潔で面白いよな。満座興に入ること限りなしか。その盛り上がりの様子、手にとるようにわかるよな」
「それでどうしたんだ?」
「暫くしてその壺を抜こうとするけど抜けない」
「それで?」
「『酒宴ことさめて』これまでガヤガヤわいわいと楽しんでいた席がぱたりと止んで、『いかがはせむと惑ひけり』おい、様子がおかしいぞ、どうしたんだ、どうしたんだって、戸惑うばかり、打ち割ろうとするけど割れないし、壺の中ではその音が響いて耐えられない」
「それでどうしたんだ?」