ことばのスケッチ

「少し足りないね」
「そんな筈はないよ、俺の目分量は案外正確なんだ」
「当てにならないね」
 ひとしきり、ブランデーの問答を始める。その様子をママは目を細めて見ていた。
「ブランデー殺人事件が起きるかもしれないね」と私が言い、
「それ、面白いね」と彼が応える。
「ところで、夏目漱石の我輩は猫であるを読んだかね」と、彼は会話の糸口を出した。
「高校時代に読んだよ」
「蛙の目玉覚えている?」
「覚えているよ、博士論文の課題だったね。蛙の目玉の電導作用に及ぼす紫外線の影響だろう」
「そうそう、そこのところ、大学時代に友達と腹を抱えて笑ったね」と、彼は言いながら話し出した。
「そもそも、蛙の目玉と電導作用ってのは、全くの無関係だよな」
「そりゃそうだ!」
「しかも、紫外線の影響だよ!博士論文としちゃ全くのナンセンスだよな!」と言いながら彼は涙を浮かべて笑いこけた。
「それもあるけど、その研究の目的が又ふるってるね」と、私が言う。
「どんな目的だったかね」
「貧乏書生が金持ちの娘に惚れるんだ」