エア・フリー 〜存在しない私達〜《後編・絆》

それからはもう話したくない。

吉永は担当医として、奥様は妻として、政治家の中条大輔は義父としての演技を全うしただけだ。

その後私は看護士長に呼び出されて、なぜ急変してすぐに医者を呼ばなかったか?と聞かれたが

「患者から吉永先生が注射を打ったと聞いたからです。」

と私が言うと士長は瞬時に悟ったようで私に

「分かりました。この事は絶対に他言しない様に…。」

と命令する代わりに私も“無罪放免”になった。

翌日は休みだったので、中条氏の葬儀にも参列した。

そして氏との約束どおり手紙をポストに投函した。

そこまではほぼ業務的にこなして行った私だが、家に帰ると実感が湧いてきたのか涙が溢れてきた。

もう涙は枯れ果てたと思っていたのに、氏が亡くなってからは、まるで壊れたシャワーの様にジンワリと溜まっては流れ落ちてキリがなかった。

改めて、私は氏に父親を重ねていたのだと思いしらされた。

そして翌日、とりあえず仕事に行くと、喫茶室で吉永と中条氏の妻に出くわした。

(やはりこの二人、関係があったんだ!)

この後、私は決心する。