父親は実直なサラリーマンで収入はまあ普通の方だったと思う。

母はずーっと保母をしていたので弟と妹は5才と2才と幼かったけど預けてフルタイムで働いていた。

父母ともにあまり実家が裕福ではなかったので、若い頃から二人でマイホーム資金をせっせと貯めていたのだ。

月々のローンが楽な様にと頭金を少しでもたくさん入れたいと堅実な夫婦だった。

だからその間、マイホームに対する憧れもどんどん強くなっていった。

私が小学校に上がる頃にはよく母と建て売り住宅のチラシを見て、ここが私の部屋で、ここが父の書斎。じゃあこの空間は母の家事室にしようと楽しんだものだ。
父は休日にはさまざまなモデルルームに連れて行ってくれ、見るだけなのに楽しくてワクワクした。

そんな平穏で明るい未来を夢見る我が家を一瞬にして地獄へと突き落とした“あの男”の事を私は生涯忘れる事が出来ないだろう。

だって父母と弟たちはもうこの世にいないのに、あの男はどこかで今日も能々と暮らしているのだ。

人のいい両親を騙してお金を取っただけじゃなく、借金の保証人として利用した挙げ句に姿をくらました最低の男。

両親の悲しみ、苦しみは計り知れないけど、今もなぜ?と私は思う。