エア・フリー 〜存在しない私達〜《後編・絆》

いつも冷静沈着な美佐子が怒りをモロに表したので、吉永は慌てて

「スマン。誤るよ。」

と取り成した。

ここでスポンサーである美佐子に降りられると吉永は自由が奪われる事になるのだ。

吉永は美佐子の匿護の元に院内で好き勝手に人体実験をやっているのだ。

しかし今回の中条の事は美佐子を困らせたくてやった事だった。

2ヵ月前、美佐子の夫の清彦が末期で手の付けようのない胃ガン患者としてこの病院に来た時、外科医なのに清彦の担当医になった。

モチロン、美佐子の指図である。

吉永は初めて対面した美佐子の夫には何の感情も湧かなかった。

敢えて言うなら、余命三ヶ月とはお気の毒に……。という事ぐらい。

なぜなら美佐子たちはまったくの仮面夫婦であると知っていたからだ。

しかし数日後、美佐子について来た黒沢を見て、吉永は愕然とした。

黒沢の前では美佐子が普通の女に成り下がっていたからだ。

あきらかに恋する女の顔で吉永の前だろうが、黒沢を絡み付くな熱い視線で見ている。

これがあの気高くてどんな男にも媚ない『中条 美佐子』なのか!?

そう思うと吉永は裏切られた思いで二人を見つめていた。

それから吉永は二人の姿を見せ付けられると、院内にいる便利屋のナースを金を出して買い、抱く事で嫉妬心を沈めていた。