エア・フリー 〜存在しない私達〜《後編・絆》

「ハッ―ハッ―ハッ……………」

まったくの静寂の中、今か今かとケータイを握り締める源の荒い息遣いだけが響いている。

だが、奴等は一向に踏み込む気配は見せずにドアの向こう側で同じく息遣いだけ荒くして待機している様子が伺える。

その緊張の時間はどのくらい続いただろうか。

追う者と追われるもの。どちらにも緊張感はあったが、やはり追われる者の緊張感の方が数十倍高いと思われた。

しかもこの40度近い気温の中、冷房はおろか窓さえも開ける事の出来ないサウナ状態の中での異常な緊張感に源はボタボタと滝のような汗を流していた。

(まったくなんて夏なんだ。どうしてこうも熱地獄へと落とされるんだ。)

源は異常な暑さの中で、黒沢に車中で熱中状態に置かれて殺されかけた体験を思いだしていた。

(こんな体験、続けて2回もしたんだ。また助かったとしても、きっとサウナには入れないな〜。)

窮地に追い込まれても源の前向きさは相変わらずだった。