エア・フリー 〜存在しない私達〜《後編・絆》

「あなた、やはり今日は車は止めましょう。」

命の母は、夫がリモコンキーでガレージを開けようとするのを制した。

「なぜだ?台風の影響で公共の交通機関はいつストップしてもおかしくないんだぞ 電車とバスを乗り継いで行って途中で止まってしまったら、それこそあの子の所に辿り着けなくなる。」

「もしそうなればそれは仕方ないと思えます。でも簡単にベンツで乗り付けたくはないんです。」

命の父は幼少の頃、島で育って何度も台風に恐ろしい目に遭わされた過去が蘇っていたが、それ以上に苦労知らずの裕福な家庭に育った妻がここまで言う覚悟に驚いていた。

「分かった。君の言う通りにしよう。でも電車はともかくバスには乗った事などないんじゃないのか?」

「ハイ。路線バスは初めてです。それに向ってくる台風に挑むのも初めてですよ。」

「おおっ それはさすがの俺も初めてだな!」

二人は笑い合って、ヨシ!行くぞ!!とアイコンタクトをとった。