火菜と命はとりあえず、フリースクールの寮まで帰る事にした。

寮が近づくにつれ、潮の香りが強くなる。

その海沿いの丸いなだらかな丘の上の一角には、フリースクールの寮や、どこかの会社の保養所、老人擁護施設、療養所があり、とても静かで安らぐ場所だった。

火菜は命の運転する自転車の後ろでなんとなく未来さんの詩の一つを思い出していた。

命をとんでもない事に巻き込んでしまったが、なんだか命といると安心感のようなものが感じられて火菜は初めて“心の拠り所”を見つけた気がした。

勇や源もずっと守ってくれていたけど、それは肉親の情のようなものだった。

(私って命が好きなのかな…。)

火菜は自分の気持ちに初めて説明のつかない“揺れ”を感じていた。