Security Abyss 2

戸部はそのあと午後の授業をサボり、家へ帰ってきた。親はこの時間にはいない。

「なんだよこれ、本当はクロロホルムじゃないんじゃないのか……?」

ワンカップを振りながら、戸部は考える。あの暴れよう、ほとんど効いていなかった。臭い、とは言っていたがその程度では話にならない。しかし、さすがに自分で確かめてみるのは蛮勇を通り越して愚か過ぎる。

「あまり振るな。もともと揮発性が高い」
「ひいっ」

声のする方向へ戸部が向くと、昨日よりはっきりと男の姿が見える。今日は顔もよく見えるが、無駄に整っている。最近やった格闘ゲームに似たようなのがいたな、と戸部は思った。

「全然使い物にならなかったんだけど、なんで?」
「どうやって使ったのか言ってみろ」
「まずこの瓶から小さいのに移して、それから……」

戸部は、事細かに説明をしていった。黒の男は、途中から紙の束に目をやり、動かなくなった。

「で、これ本当にクロロホルムなの?」
「間違いない。少しは自分で調べたらどうだ」
「だったら、なんで小崎は全くなんともなかったんだよ」
「さっきも言ったがまず一つ、クロロホルムは揮発性が高い。瓶から出して階段を上がり、人が出てくるまで待っているというのがひどすぎる。そしてもう一つ
、朝の数時間でも日光に晒したのもひどい。変質して使い物にならなくなるに決まっている」
「なんだよ……だったらなんで言ってくれないんだよ」
「意思の範囲でしか動けないからだ」
「さすが悪意さん不親切ったらないね、あーあーひどい」

戸部が皮肉を投げかけるころには、男の姿はまた消えていた。