Security Abyss 1

鞍玲は教室に居た。手には自分のものではない携帯電話。そして、携帯電話より少し大きいミニノートPC。その2つが、ケーブルで繋がっている。プログレスバーは伸びては満たされ、計算処理を行っているさまが映し出されている。

「な、え、なにこれ、えーと……」

自分の置かれている事態を把握しようとしているところに、聞き覚えのある重苦しい男の声が頭の中で響く。

「それがオラクルだ」
「?!」
「説明は後だ。とにかく、今は目の前の機械に集中しろ」
「ただのパソコンじゃない」
「だから機械だと言っただろう、そして声は出さずとも通じる」

鞍玲は、目も口も閉じて男と意思疎通を試みる。

「その男の携帯電話はせいぜい6桁の数字でパスワードを管理している。000000から999999、正規表現で言えば[0-9][0-9][0-9][0-9][0-9][0-9]、たかだか100万通りだ、それぐらいならわざわざオラクルを出さずともそこらのPCでも1日あれば終わる、もっともオラクルなら1兆通りだろうと1京通りでも造作も無いが。辞書データが適用できればもっと早く終わるかもしれないが今回はブルートフォースアタックに」

「え、ちょっと、あ、え、イミフすぎるんですけど」
「簡単に言えば、わざわざ私がそれを貸す必要もなかったということだ、もう終わってるぞ」