「カバンはどうするんだ」
「ひいっ?!」

ベッドで天井を仰いでいた鞍玲の視界に、おおよそ部屋の内装と不釣合いの重厚な布が揺れている。

「カバンは」
「あ……あ……」

鞍玲は瞬時に体を起こすが、壁に向かって後ずさりをするのが精一杯で、言葉も出ない。重厚な黒のベルベット地は、男のコートだった。

「何もしないのなら取ってきてやる」

男は滑らかにきびすを返すと、玄関へと移動していった。鞍玲は事態の把握が出来ないままベッドの上でへたり込んでいる。