Security Abyss 1

「そろそろ居なくなることになりそうだ。お前の悪意は既に薄れている」

男はオラクルをコートの中にしまい込むと、背を向けて言った。男は続ける。

「確証は無いが……また来ることになりそうだ」

鞍玲は意表を突かれた。

「なんで?」
「お前の携帯電話にオラクルをつないだ男が居る」
「……!」

鞍玲の顔がひきつる。

「正確に言えば、ずいぶんと性能の低いオラクルもどきの機械だ。もっとも、4桁程度のパスワードなどパスワードとすら呼べんのだが」
黒の男の姿、存在が徐々に薄れる。
「やましいことがあったのなら、またいずれお前の前に姿を現すことになる」
「(誰?私の携帯に?いつの間に?携帯は肌身離さず持ってたはず)」
「自分だけが特別だと思うな。悪意は偏在している」

言葉を言い終わるか終わらないか、そのとき既に男の姿はなかった。
机の上に、ポストに入っていたものと同じ書式の手紙。