「…またや…もう狂気の沙汰としか思われへんな。」


独り言のあと見上げた時計は、午後2時を指している。

テ-ブルの上に置いてあった煙草をとって、火を点ける。

麻弥の部屋は大阪、心斎橋にある。


『やかましてもええねん、便利がよかったら。』


そう言って、香月が決めた部屋だ。

二人で住んでいたワンルームは、一人だとたまらなく広い。

昼間から騒がしい窓の外を見つめて、今日も自分が無事に生きていることも惜しむ麻弥が、そこにはいる。


「だるいな…」


長い髪を掻き上げて、仕事で着ていた服を脱ぎ捨てる。

これが日常。

麻弥の仕事は、スナックのママである。

キャバクラやホストが流行るこのご時世に、救命士を退職してからの仕事として、地元で極めてきたスナックの仕事を再度、始めたのだ。