その、『人の形をしていない影』は、ゆっくりと着実にこちらに近づいてくる。
オレは、あがらない腰を落としたまま、こちらに近づいてくる影をゴクリと唾を飲んで見上げた。
煙が少しずつ風にとばされ、薄れていく。
そして、“人ではない姿”が露わになる。
「―――――ッ!?」
オレは、あまりの驚きと恐怖に声すらあがらなかった。
その人ではない姿とは―――――――
巨大な大蛇のような・・・怪物だった。
毒々しい深緑の巨大な『体』。この世のものとは思えない程恐ろしい『目』。
「シャァ――――!!!」
怪物が・・・化け物が、恐怖で立ち上がることができないオレに、鋭い牙を向ける。
「ひっ!」
情けない声をあげ、オレは腰を降ろしたまま後ずさる。
それでも、それでも容赦なく怪物はオレに己の牙を向け、それを振りかざす。
「シャァアァァァ!!」
再び、怪物は奇声をあげ、オレに襲いかかる。
(もうダメだ―――!!)
もう、オレの人生は終わった。 もの凄く平凡な毎日だったな―――。
オレが死んでも、否、絶対にこの世は“変わらない”。
皮肉なことだ。誰が死んだって、この世は『朝』を、『夜』を何度も迎えるのだから。
・・・・一気に色んなことを考えた。
グサリと、牙がオレの肩に食い込んだ・・・・あれ??
痛く・・・ない??
「―――!?シャァ・・・!!」
怪物は、その大きな体を後方へと倒した。いや、倒された。
何者かによって。
「―――!?」
オレは強く瞑っていた目をゆっくりと開く。
オレは・・・生きている!!!
そんなオレの目に広がった光景は、無残な姿で倒れた怪物。
そして、その後ろに、とある少女が髪をなびかせ
剣を携えて堂々と醜い怪物を見下していた。
