気づけば、語りのために使われていた、台詞が書いてある焼け焦げを施した古ぼけた紙は、アンプの上に置かれていた。

次の曲のために、それまで暗く落としていたステージ上の照明が、右から左まで全てついた。

光に届くように、背のびをして手を伸ばした。

少しだけ、彼の気持ちに届いたような気がした。

そのまま光にとけて消えていってしまいたかった。

さっきの赤黒い血液のようなドロドロした気持ちも溶けていくようだった。

空気中を舞う細かい塵や埃、次の曲へと入る曲間の一瞬の静寂さえが愛しかった。

その音の中に浸っている間だけが、浅美にとって幸福の時間で現実であるように思えた。

夢の時間に、心の底から陶酔しきった。

音の中で浅美は、ただひたすらに立ちつくしていた。

彼らの歌詞は大変にメランコリックでセンチメンタルで、少女の希望や願望がそのままに詰まっていると言っても過言ではなかった。

初めて見た時から比べたら、観客の数は格段に増えていた。

それでも、1クラス分埋めるには足りないほどだけど、始めは数えるのに片手で足りていた人数が、今ではその倍以上になっている。