「…ね、神音…ちょっと神音?聞いてる!?」

廊下を歩きながら隣を歩いている明日美の声に、ハッとして振り向く。

「あ、ごめん!ちょっとぼーっとしてて、聞いてるよ」

明日美が「なるほど」って表情で笑った。

「彼氏が同じクラスになって舞いあがってるんでしょ?いいなぁ、あんなかっこいい彼氏。しかも既にもう人気者じゃない」

明日美が少し後ろを歩く穂高を振り返る。

穂高はホームルームのあとすぐにクラスの男子や女子に囲まれ、1時限目の体育で体育館に移動する今も、男子生徒の何人かに囲まれ楽しそうに歩いていた。

改めて、穂高って人を惹きつける何かを持っているんだなって実感させられた。

雪音がすぐに心を開いたのも、今は納得できる。

たくさんの人に囲まれてても、穂高は、そのかっこよさと嫌みのない笑顔で、人目を引く。

「明日美、穂高がわたしの彼氏だなんてみんなに言わないでよ。つきあってるわけじゃないんだから」

「え!?そうなの?でもいい雰囲気だったじゃない!?」

この前の体育倉庫で偶然見られてしまったあのことか、と思い出した。

「うん…でも今は、ちょっと違うっていうか…」

「…ふ~ん。いろいろ複雑なんだね?」

屋上でキスしながら穂高が言った一言。

『神音……ずっと、愛してた』

信用してないわけじゃない。

でも、恋の経験の薄いわたしには、その言葉を受け止めるには、まだ勇気が足りない。

それに、先生への気持ちが『イヴ』のものなのか、自分自身のものなのか、はっきりとしてない中途半端な自分が、嫌だった。