「……い、いや…!!触らないで!!」

条件反射だった。

思わず先生の手を振りほどいたわたしを、先生は驚いたような顔つきで瞬きもせずに見つめた。

先生の手を押しのけた自分の手が震えているのがわかって、わたしは必死で押さえた。

……誰にも触られたくなかった。

この額のひどい傷には……絶対に。

唇を噛んだまま黙っていると、江島先生の穏やかな声が聴こえた。

「ごめんなさいね。熱があるか診たかっただけなんだけど、勝手なことして悪かったわ」

見上げた先生の瞳は哀しげに揺れていて、ほんとうに悪かったという気持ちが伝わってきて、胸がチクンと痛んだ。

三日月のような額の傷は、見た目は前髪でほとんど隠れているけれど、触れられたら前髪の上からでもはっきりとわかるくらい深い傷だった。

「…いえ、こちらこそ大声出してごめんなさい」

「いいのよ」

窓際のベッドの上から、雨降る校庭を見つめる。

鬱陶しい梅雨でも、わたしには恵みの雨だ。

……だって、傘をかぶっていれば、他人の目からこの傷を隠すことができるもの。

「そうそう、陣野先生が倒れたあなたをここまで運んでくださったのよ。あとでお礼言っておきなさいね」

「!?」

じ…陣野先生が………!?

「…せ、先生、それ、ほんとですか!?」

突然窓から目を離してものすごい形相で振り向いたわたしに、江島先生はきょとんとした顔をして固まったけど。

すぐに素敵な笑顔でクスクスと笑いだした。

「ええ…あなたを抱いてここまでいらっしゃってね。くれぐれも宜しくって」