「行くぞ」

スニーカーをきゅっと鳴らして穂高が立ち上がる。

差し伸べられた手をわたしはまたしっかりと握り返した。

「江島先生は、上に行ったようだな」

階段に点々と落ちている血を見て穂高が言う。

さっき江島先生が吸血したわたしの血が江島先生の口から滴ったんだ。

わたしたちは急いで血のあとを追って階段を上っていく。

「さっきチラリと見えたけど、彼女の胸のアザはほとんど消えかかっていた。あのアザが消える時が……彼女の命が尽きる時、だ。きっともうそんなに時間がない」

「!?」

江島先生が吸血鬼だったという驚きで忘れていた。

先生が死ぬかもしれないってこと。

でもさすが穂高はヴァンパイアだ。

あの暗闇で、しかもちょっとした隙にそんなことを確認していたなんて。

ママの本で読んだけど、ヴァンパイアは夜目が効くらしい。

暗闇でもひととおりのものは見えるのだ。

「穂高!先生をなんとか助けられない?」

駆け上がりながら、わたしは叫んだ。

「わからない。なにせこんなことは初めてだからね。そのアザを受け継いだ君にも何が起こるかわからないんだ」

「…………」

そう。

わたしたちは、初めてのことと闘っているんだ。

穂高は…………どうしてわたしを助けてくれるんだろう?

いくら一族の役目とはいっても、たった一人で自分も傷つくかもしれないのに、




…………………………どうして……?