「イヴの欠片は、10人のヴァンパイアに放散されたんだ」

穂高はそう言った。

パパがまだ帰ってきていないわたしの家のわたしの部屋で、あぐらをかきながら穂高が話しているのを聴くのはなんだか不思議だった。

「イヴの欠片ってこの薔薇の形のアザのこと?」

ベッドに座りながら制服の上からアザに触れる。

「そう。一千年ほど前、ヨーロッパ大陸でヴァンパイアの祖が誕生した。それが、『イヴ』という名の女性だ。彼女は初めて永遠の命をもつ生命としてこの世界に誕生したんだ」

ヴァンパイアの祖……それが『イヴ』。

その時、コンコンとドアをノックする音が聴こえ、わたしは「雪音?」と呼びかけた。

静かにドアを開けて入ってきた雪音の手にはプラスチックのトレーが乗っていて、その上に湯気を立てた紅茶が2つと買い置きの焼き菓子が2つ乗っていた。

「雪音、ありがとう。あ、えと、この子、雪音っていうの。わたしの妹」

綺麗にテーブルに紅茶とお菓子を並べる雪音を感心したように見つめる穂高。

「雪音ちゃん、オレ、浅見穂高。18歳で、お姉ちゃんの彼氏になる予定。宜しくね」

「ほ…穂高!?」

穂高は背の小さい雪音の頭を優しく撫でる。

雪音はいつものように無表情で客人をじっと凝視すると、か細い声で呟いた。

「お姉ちゃんの……かれし…?」

「…そっ!」

穂高は警戒心を何も与えないほどのふんわりとした笑顔で雪音に微笑みかける。

……穂高。

その瞬間だった。