「穂高…ねぇ、どういうこと?お願い、教えて。わたし…自分のことも全然わからないの!!」

穂高はふっと他のどこかにいっていた意識を取り戻すようにわたしを見た。

サラサラの前髪を揺らして、わたしの頬に右手で触れる。

「…そうだな。神音はまだ、何も知らない」

触れた右手の親指が、花にそっと触れるようにわたしの唇を撫でる。

「…そしてまだ、オレのものでもない」

穂高の瞳が、切なく光った。

「……穂高…?」

「できるだけわかるように話すよ」

穂高がそう言った瞬間、体育倉庫の影から聞きなれた声が聴こえてきた。

「あっれ……神音?…え、えぇええ!!な、なにやってんの!?も、もしかして…」

「明日美(あすみ)!!」

クラスメートでわたしと一番仲の良い遠山明日美が口をあんぐりと開けてわたしたちを穴の開くほど見つめる。

「神音…彼氏いたんだ…」

「い、いやあの…これはちがくて…明日美、これからバスケ部!?」

「うん。ちょっと遅れちゃったけど。ふ~ん、かっこいいじゃん。うちの生徒じゃないよね?今度ゆっくり紹介してね、神音!!」

そう言いながらショートカットにTシャツの明日美が笑顔で走りだす。

「か、彼氏じゃない!!」

慌てて叫んだわたしを明日美は振り返ると、からかうように微笑んだ。

「…胸はだけてるけど?」

「!?」

……ぎゃ、ぎゃあ、見られた……!!

真っ赤になりながら穂高を見上げると、彼はすごく楽しそうに横を向いて笑いを堪えながら肩を震わせていた。

「……ほ、穂高、何がおかしいのよ!?」

くっくっと肩を震わせながら言う。

「慌てっぷりが」



そのまま穂高は自分のパーカーをわたしに着せてくれた。