「…先生、苦しいの…?どうし…」

どうしてと言いかけたわたしの腕を先生がグイッと引っ張り、わたしは先生の胸にすっぽりとはまるように入りこんだ。

「せ、先生…!?」

温かい。

先生の胸の中で、先生の息遣いを感じながら、わたしは最初にそんなことを思った。

昨日は、先生の顔も唇も胸も、全てが氷のように冷たかったのに。

なんだか、昨日とは別人みたい。

……わたしが好きだった先生みたいに。

グイッと先生が右手でわたしの顎を上げる。

「…先生…?」

少し開かれた色っぽい唇から苦しそうに漏れる吐息。

先生の顔は切なげで、そして、今にも涙を浮かべそうなほど哀しげだった。

なぜだろう。

昨日はあんなに怖かった先生が、今は全く怖くなくて。

吸いこまれるように先生の瞳を見つめていたわたしの額に、先生の綺麗な唇が伸びてきた。

ちゅっと音をたてて一瞬だけ額にキスをした先生は、そのまま自分の額をわたしの額に重ねると、つらそうな声で言った。

「済まない、神音。君の傷も治せなくて……愛しているよ」

穂高が治してくれた傷の上に被さる先生の額から、不思議な温かさを感じた。

……先生、なんで?

なんで急に優しいの?