「志雄。そんな体で大丈夫ですか?止めても無駄だとはわかっていますが、せめて今夜だけでも」

廊下で粛清の身支度を整え終わったシオに向かって、静流さんが声をかける。

シオは表情一つ変えずに彼女を一瞥すると、踵を返した。

「今夜は大切なヤマだ。私が休むわけにはいかない」

「…そうですか」

静流さんはこうなることはわかっていたかのように、あっさりと身を引いた。

怪しまれないための一応の引き留めなのかもしれないけど、彼女にとっては本当に兄を心配しての発言だったのかもしれない。

「いってらっしゃいませ」

恭(うやうや)しく、彼女は兄を見送った。

20名以上の吸血鬼がここを出発していき、辺りは誰も存在しないかのように、しんとしていた。

とうとう脱出の時がきたんだ。

緊張で少し足が竦んだ。

静流さんとは彼らが出発した30分後に入り口で落ち合うことになっていた。

わたしたちは目だけで合図を交わし、それぞれの自室へと戻った。