ふすまを開けて廊下に足を踏み出したシオが振り返った。

「静流さんを嫌いだなんて、絶対に嘘。本当は、怖くて堪らないくせに。静流さんが死ぬのが怖くて逃げているのよ。わざと冷たくして愛さないようにしていた。心に嘘をついてた。…吸血鬼は、愛する人の血を最も渇望する」

そして、シオを睨みつける様にこの言葉を投げつけた。

「……あなたは、他の女性の血も吸血できないくらい、彼女を愛してるのよ!!」

シオは、ただ立ち尽くしていた。

眉一つ動かさず、わたしの瞳から目を逸らすことはなかった。

「…神音様は作り話がお上手ですね。ここで吸血しないのは、粛清した吸血鬼の血で足りているからです。私が妹を愛したことは、ただの一度もありません」

ひどく冷たい言葉をシオは淡々と流れるように紡いだ。

その瞬間、後ろでバタンと何かが倒れる音が聴こえ、振り返った時には、静流が畳の上に横たわっていた。

「…静流さん!!」

駆け寄った彼女の顔は蒼白そのもので、熱もあるようだった。

彼女のか細い体を支えながら、怒りが込み上げてきてどうしようもなかった。

「シオ…こんな仕打ち、ひどいよ。静流さんは…あなたのために、イヴの欠片まで背負ってしまったのよ!!」

シオは瞳を細めて青白い静流さんの顔を見下ろしていた。

その表情からはなんの感情も読み取ることはできない。

「もうお一人のイヴ様が甦るなら、それは我々の本望です」

………本…望………!?

パタン…と閉じられたふすまの音がやけに遠く感じた。

本望って……静流さんが死んでも本望だというの………!?


――――――――シオ……………!!!