静流さんは、シオが眠る横で、兄の様子を気遣いながらいきさつをゆっくりと話してくれた。

彼女は生まれつきの吸血鬼特有の病を持っていると言う。

吸血鬼の純血を保つために近親者同士で繰り返されてきた交配により、ごくまれに彼女のような特異体質の吸血鬼が生まれるという。

それは吸血鬼にとって、かなり稀有な劣性遺伝。

吸血することによって力を得る彼らは同時に、吸血されてもよほどのことがない限りそれほどの体力を消耗することはないが、彼女にはそれが致命傷となりえるという。

「生まれた時に、両親がその病気に気づきました。だから兄は絶対にわたくしの血を吸おうとはしなかったのです。でもわたくしは悔しかった。子供のころから、わたくしは兄を愛していて、愛する者に血を吸われる喜びすら知らない自分を呪いました。兄は…わたくしの気持ちを知っていると思います。でもいつも冷たい態度ばかり。こんな体だから嫌われているのかと、いっそ兄に血を吸われて死んでしまいたい…と思ったこともあります」

ぽたぽたと白の着物に涙を零し続ける静流さんに、わたしはどう声をかけていいかわからなかった。

「わたくしの体は、吸血されるとされないとに関わらず、年々弱ってきています。どうせもうすぐ死ぬのだから、兄に血を吸って欲しい。そう懇願したときも、兄はわたくしを冷たくあしらいました。……兄は、吸血鬼の使命も果たすことのできないわたくしが、邪魔なのです……」

……でもなぜ、シオは他の女性の血すら吸わないんだろう?

それは、厳しい粛清という使命を負ったシオには、とても過酷な状況のはずだ。

その疑問が、ゆっくりとわたしの頭の中で答えを形作り始めた。