どれほど時間がたっただろう?

倒れたシオの傷の手当てをして、静流さんの部屋のふとんに二人がかりで寝かせやっと落ち着いてから数十分。

気を失っているシオが眠るふとんの横で、静かに涙を流している静流さんを部屋の脇に座りながらじっと見つめていた。

シオの傷は、ナイフで切られたらしい首の10センチほどの切り傷が重症だったようだけど、それ以外はかすり傷程度ですんでいた。

首に包帯を巻いて青白い顔で眠るシオを懸命に看護する静流さんの様子は、とても美しく見えた。

「…静流さん、こういうこと…よくあるの?」

まだ涙も渇いていない静流さんに問いかけた。

彼女はハタと手を止め、逡巡するようにシオの顔を見つめながら言う。

「…粛清は、危険な仕事です。たまに返り討ちにあう吸血鬼もおります。でも、兄は古来から続くこの使命を果たすことを誇りに思っています。せめて…兄の力になれればと、わたくしの血を飲むようにと頼んでも、兄は頑なにわたくしの血を拒んでおりました。……でもまさか……他の女性の血も飲んでいなかったなんて……!これでは、兄の体はボロボロになってしまいます」

か弱い肩を震わせ涙をこらえる静流さんの姿が痛々しくて、彼女の兄への想いが胸に迫ってきた。

「…どうして、シオは誰の血も吸わないんだろう…?」

吸血鬼にとって血は、極上の力の源。

命の源といってもいいだろう。

「……わたくしが、もうすぐ……死ぬからです」

振り返った静流さんの笑顔は、今にも消えてしまいそうなほど、

―――――――儚げだった。