ヴァンパイアに、死の花束を

その夜。

すやすやと眠る雪音のふとんを掛け直して、できるだけ音をたてないように部屋を出た。

夜になると半分の15名ほどの吸血鬼が粛清のために外へ出ることは掴んでいたけど、今夜はシオも出て行ってしまい、絶好のチャンスだと判断した。

誰でもいい。

誰かの血を吸って、深紅の瞳で屋敷の隅から隅までを透視してみよう。

雪音だけは吸血するわけにはいかないけど、場合によっては静流さんもやむを得ない、と腹をくくっていた。

…これも、みんなのためだ。

息を殺して暗がりの廊下を歩いていく。

静流さんに与えてもらった深紅の着物のままでの脱出は不便だったけど、脱出防止のためか静流さんがわたしの服をどこかに隠してしまったので、それもやむを得ない。

確かこっちは静流さんの部屋の方角だけど、そこを通り過ぎれば他の吸血鬼が暮らしている部屋があるはずだ。

静流さんの部屋を静かに通り過ぎようとしたその時。

ふすまの奥から、囁きのような声が聴こえてきた。

「…ん…やめて…ください…これ以上吸われると……」

喘ぎにも似た静流さんの声に、ハッとする。

「なんだよ。兄貴にはたんまりと吸わせてあげてるんじゃないのか?」

……この声……風馬…だ……!!

「兄は…わたくしの血は一滴も吸ったことはありません……」

「そんなわけないだろ。あれだけの粛清を行うには、愛する女の血が必要だ。あいつは他の女の血だって吸ってないぜ。わかってるんだよ、お前たち兄妹が愛し合っているのは、な」

………愛し……あって…る……!?

「やめてください!兄はわたくしを愛してなどおりません!!」

声を荒げた静流さんの口が塞がれたのか、「うっ」というこもった声が漏れた。

「血がやれねぇってんなら、“エクスタシー”をいただこうか?ヴァンパイアは女と交わることで力を得るらしいじゃないか。……“吸血鬼”には、そんな特性はないが、な……へへ」

……………!!!!