雪音には部屋に残るように告げて、わたしとシオは部屋を出て板の間の廊下を走った。

綺羅に何が起こっているのか見当がつかないわけじゃなかった。

彼女は雅の命令でわたしやレイを狙っている吸血鬼たちがいることを知って、レイを護るためにわたしたちの前に現れたのだ。

そんな綺羅が抹殺の対象になってしまうことは充分に考えられることだ。

…ごめんなさい、綺羅……わたしのせいで。

先ほどの部屋は一番奥ではなかったようだけど、廊下はちょっとしたお屋敷のように長かった。

途中いくつもの部屋の入り口の障子を通り越して、やっと地上へ上る階段らしきものが見えてきた。

階段を駆け上がり細長い鉄の扉を開けると、そこは木々が生い茂る森の中だった。

「…ここは…?」

辺りは先ほどよりも暗くて、地面がすっかり湿るくらいの雨が降っていた。

わたしが出てきた扉にシオは両手で触れると、深紅の光を両手から溢れさせた。

地面の上に蓋のように閉じられている扉が、シオの手から放出される光によって徐々にその姿を消していく。

風が巻き起こったように土が舞いあがる。

そして数秒後には、扉はあとかたもなくなり、ただの土けむる地面となっていた。

手をパンパンと叩いて手についた土を払うシオが、わたしを振り返った。

「吸血鬼の血筋の最も濃い血を代々受け継いできた我々にしかできない封印の術です。竜華のように西洋の“ヴァンパイア”の血を交わらせた吸血鬼にはけして開けることはかなわない」

だからとても安全、必ず竜華雅から護りますと言わんばかりの自信ありげなシオの表情。

シオは踵を返すと、雨の煙の中にうっすらと見えている千聖が祀られている神社へと走り出した。