「……泣いているみたい」

ふいに、雪音が隣でつぶやいた。

「雪音?」

暗闇の中、雪音がご神体に向かってつぶらな瞳を向けていた。

雪音がこの暗闇の中、小さなご神体の表情まで見えていることに驚いた。

…ううん、雪音だって吸血鬼だ。

まだ吸血行為には至っていないけど、まだ小さな雪音だって紛れもなく吸血鬼なんだ。

…ううん、そんなことより……。

「雪音、あれが泣いているように見えるの?」

雪音は少し眉根を寄せてからコクンと頷いた。

「…さすが、雪音様ですね」

壇上に上げられているご神体を見上げながら、シオがふっと息を吐くように微かに微笑んだ。

「この像は、一千年前、吸血鬼の始祖である陣野火月様がお彫りになった像です。その像に、火月様が吸血鬼のエナジーを吹き込まれて以来、純粋な吸血鬼の家系である者には、この像の本当の表情が見えるのです」

「…へぇ~。オレには怒っているように見えるけどね。まっ、オレは日本の和の精神なんて知らない英国出身のヴァンパイアだしぃ」

レイは両腕を頭の上で組みながら面白くなさ気につぶやいた。

「…わたしには、慈悲深いようにも、怒っているようにも見える……。ねぇ、この像は一体なんなの!?」

わたしの不安を露わにした表情をシオは冷静に瞳を細め見つめた。

「…神音様の中には、もとのヴァンパイアである自分と、その強大なヴァンパイアのエナジーを隠すように覆っている吸血鬼の姿の2つが存在しています。なので、この像の本当の姿をご覧になることはできないのでしょう。……あの像は、火月様が、イヴ様によって命を絶たれた神音様のお子である『千聖(ちさと)』様を祀るために作られたのです。つまり、あの像の表情は、千聖様のお心そのもの…」