この夜は結局、猫みたいに転がり込んできた綺羅がレイのベッドで寝て、レイはソファで寝ることになった。

わたしは自分の部屋に戻り、すやすやと眠る雪音の隣にもぐりこんだ。

何も知らない雪音の寝顔は、とても安心する。

綺羅が今も死にたいと思っていなくて良かったと、ふと安堵した。

もし死にたいと思っていたなら、彼女も『イヴの欠片』の餌食になってしまうかもしれないのだから。




翌朝。

わたしは雪音の笑い声とともに目覚めた。

ぷにっとわたしのほっぺたをつまんでいる雪音が、面白そうに笑っている。

「――ゆぅきぃねええ!!」

「きゃぁ!…お姉ちゃん…こわ~いっ…」

楽しそうにケラケラと笑う雪音に、心から幸せを感じた。

こんなに楽しそうに笑う雪音を見たのは、何年ぶりだろう?

だんだんと、昔の雪音に戻ってきていることを感じられる喜び。

―――雪音はほんとうは、誰よりも笑う子だ。

「…か~のんちゃん!そろそろ行っくよ~。起きてる?」

ドアの外からレイの声が聴こえて飛び起きた。

やだ…8時になっちゃってた。

慌ててぼさぼさの頭を撫でながらドアを開けた。

朝から麗しいほどに美しいレイの顔に悔しくなる。

…だってレイの顔は笑いを堪えるのに必死だったから。

「…神音ちゃん…その寝起きの顔、穂高に見せたら百年の恋もぶっとぶよ…ぶっ」

だから思いっきりレイの顔のど真ん中に平手打ちを被せてやった。

……ざまぁみろ。