「キスしてくれないのって、わたしにだけなんだ?」

妙に冷めたような声で、顔も上げずに呟く綺羅。

「…いや、か、神音ちゃんにもキスしてないよ、ね?神音ちゃん?」

急におかしなことで同意を求められ、面喰ったわたし。

「レイ…そんなの自慢にならないでしょ?」

レイを睨みつけた直後、綺羅はむくりと顔を上げた。

泣きはらし、涙でぐちゃぐちゃの顔は、さっきよりも子供に見えた。

「…レイ。レイはいつも女の子を元気にしてくれる。いろんな女の子とキスするのも、彼女たちを元気づけるため。そしてレイは、レイに恋してる女の子にしかキスをしない。自分は決して本気にはならないけど。…なのに、レイはわたしにはキスをしてくれない。こんなにいつも好きだって言ってるのに……」

たまに声をひきつらせながら話す綺羅の声はかわいらしかった。

レイはふっとため息をつき、ベッドに身を投げるようにして座り、長い足を組む。

「綺羅。君は人間の時からそうだけど、甘えすぎてる。女の子に決して本気にならないオレには、君の甘えたい気持ちは重すぎるんだ。オレは…自分の足で歩くつよ~い子が好きなの!」

綺羅って吸血鬼だったんだ、とこの時初めて知った。

まぁ、わたしの周りは吸血鬼ばかりだけどね、と半ば開き直る。

「…強くなったら、キスしてくれる?」

殊勝におねだりするような声音で、綺羅が上目遣いにレイを見上げる。

それには参ったというようにレイは両手を反すと、

「いいよ。オレの好みの女になったら、ね」

と、含んだような笑みを漏らした。