レイは獲物に忍び寄る獣のように、足音も立てずに綺羅に一歩一歩近づいてくる。

「レイ!…来ないで!ほ、ほんとに殺すわよ…」

殺すという威勢のいい言葉とは裏腹に、ナイフを持つ手が小刻みに震える綺羅の前に、レイはピタリ、と止まった。

「ほんとうに殺せるの?綺羅。あんなに泣き虫だった君が?」

レイの薄く笑う唇は色っぽくて、不覚にもドキリとした。

綺羅は鼻と鼻がぶつかりそうなほど近くにあるレイの顔を困惑したように見つめながら、ポロリと涙を零した。

「…ごめんなさい。レイ」

俯いた綺羅のうなだれた表情を見届けると、レイは彼女の腕からナイフをそっと引き抜いた。

首から冷たいナイフの感触がなくなって、わたしはほっと一息つく。

「こういう物は、綺羅には似合わないよ」

言って、妹を慰めるように笑う。

「…クシュン!」

湯冷めして寒気のしたわたしは思わずくしゃみをした。

「おっと。神音ちゃん、そんな格好じゃ風邪ひくよ。オレたちは出てるから服に着替えて」

「!?」

言われて気づいた自分の恥ずかしいタオル1枚の格好に、一気に顔が紅潮した。

「レ、レイ!速く出て~!」

レイは綺羅を先に出しながらこちらを振り返った。

「はいは~い、退散しますよ。神音ちゃん、イヴの欠片まで真っ赤だよん」

バコン、とレイが閉めたドアにわたしが投げたブラシが当たった。

み、見られた……胸のイヴの欠片まで……!