「……ぐ…ぁ……!」

わたしの手を握っていた先生の左手が突然離れ、振り上げていた右手の手刀を押さえる。

右手に、一輪の黒の薔薇が突き刺さり、先生の右手からは鮮血が流れていた。

トンっと床に着地した穂高が、凍りついたままのわたしを見上げ、叫ぶ。

「神音!!はやく、こっちへ…!」



「………穂高……!!」




先生のレインコートがサラリと肩を離れたけど、わたしは構わず穂高の胸に飛び込んでいた。

背後から、先生の苦しげに歪んだ声が聴こえた。

「どうやら、私の『吸血鬼』の力はまだ、新種の『ヴァンパイア』には及ばないようだ……。だが、私はいずれ『鬼』と化す。イヴ…君は必ず私のもとに還ってくる。……必ずだ…!」

先生は冷たい表情で射抜くようにわたしを見ると、そのまま体育館の外へと走り去った。