ヴァンパイアに、死の花束を

「ようこそ、イヴ。4分30秒。あと30秒だよ」

柵の上に座って空を見上げたままの雪音とわたしの間に、立ちはだかるように園田先生が立っていた。

その瞬間。

階下から、激しい叫び声が聴こえた。

「雪音ちゃん!!だめよ!!飛び降りちゃだめ!!芳樹は鬼なの。彼の言うことを聞いてはだめよ!!」

……この声、沙耶……。

「沙耶、僕は君のために鬼になった。君の暗示は絶対に解かない。僕はイヴとともに、鬼として果てる」

立ち上がる煙とともに、わたしは園田先生の姿を一瞬見失った。

その瞬間だった。

ブスリ…という牙が喉に突き刺さる音。

「……ぐっ…」

体が押さえつけられ、急激に血が吸い上げられていく感覚に、目まいがした。

ガクンと膝から落ちていく体。

力が抜ける。

体に力がうまく入らない。

………わたし、どうしたの……?

口もとの血を拭きながら、園田先生はわたしを見下ろして言った。

「…ここで沙耶のために、僕と一緒に死んでくれ」

園田先生の特殊能力『体の自由を奪う力』だ。

うつ伏せに倒れたわたしは体の感覚をなくしながら、雪音を見上げた。

「…ゆき…ね…」

「5分ジャスト」

園田先生が冷たく言い放った瞬間、雪音の体がふわりと、夜の闇に吸いこまれていく。


「………雪音―――――――!!!」