星の照明と、バルコニーをステージに、バルコニーの白い柵の上に座り、4階からどこを見るともなく視線を彷徨わせている雪音がいた。

その後ろで、園田先生が雪音を背中から抱きしめている。

「雪音!!わたしを見て!!……雪音―――!!」

叫んでも雪音は瞬きを返すだけで、空ろな瞳で空を見上げる。

「…来たね、イヴ。今、雪音ちゃんがどんな状態なのか、君に教えてあげよう。僕はこの子に暗示をかけた。その暗示はこうだ。『入江雪音は、あと5分後にここから飛び降りる』」

「!?」

レイがしくじったという顔で悔しげに空を見上げた。

「…そんな。……そんなことさせない。…絶対に!!」

唇をぎりりと噛んで園田先生を睨み上げたわたしに、彼は冷たいまでの微笑で応えた。

「時間がないぞ、入江神音。この暗示は君が雪音に触れることで解くことができる。入り口は開いている。上がってきたまえ。そこの銀髪の彼も来たければ構わないが?」

レイを挑発するように見据え、雪音のふわりとした髪の毛に触れる。

雪音はあくまでも、わたしに視線を合わせることなく、空を見ていた。

はじかれたように走り出すわたしをレイが追ってくる。

バンと開け放ったドアの向こうは暗闇だった。

4階への階段を探して意識を瞳に集中させる。

深紅の瞳が研ぎ澄まされ、スコープのように辺りを見回す。

「レイ、見えたわ。あそこよ!」

白い階段が紅い光に包まれたように浮かび上がる。