“血界”のように、紅く、雅と穂高を取り囲む蝶たち。

「…穂高!!」

穂高に差し伸べた手は、鋭い痛みとともに差し戻された。

「……っつ」

つい、と流れる血。

指が、ナイフに斬られたように鮮血を溢れさせる。

紅い蝶は、それ自体が、ナイフだった。

「…ヴァンパイアの強靭な肉体と、吸血鬼の進化力。両の業をもった雅なら、あなたに対抗できる。そして、穂高と生きるにふさわしいのも、この雅。あなたにふさわしいのは、生を仮初めに生きる陣野火月だわ」

舞う蝶をカーテンに、雅が紅い唇を穂高の唇に押し当てる。

眠ったように穂高は瞳を瞑ったまま、微動だにしない。

「……い…やっ…やめて……!」

瞳を閉じて涙の粒が零れた瞬間、ぐいと腕を引かれ、体がのけぞる。

「神音ちゃん!!」

銀髪に、青い瞳のその人はチラと蝶の円舞を流し見ると、わたしを穂高の車の横につけられている赤い車に引きずり込んだ。

「レイ!!」

レイは運転席に乗り込み、車を急発進させる。

「…レイ、どうして!?行っちゃだめよ!!穂高がまだあそこに…!」

レイは車を発進させながら、雅の冷笑を一瞥しただけで、そのまま猛烈なスピードでトンネルを抜け出た。

振り返り、彼に向かって叫ぶ。


「……穂高―――――――――!!!!!」