「穂高!それじゃ、今、陣野先生は沙耶の暗示を解こうとしているんじゃ!?」

「そうだろうな。でも、そう簡単なものでもないんだろう。神音、とりあえずオレの部屋に戻って少し休もう。出かけるのはもう少しあとでいい」

………え!?

スタスタと、もと来た道を戻る穂高にわたしは面喰って呆然と彼の背中を見つめた。

「ほ、穂高!!休むって、そんなんでいいの!?せ、先生を探さないと…!」

振り向いた穂高は、園田先生の携帯を持って、勝ち誇ったように笑っていた。

「探さなくても、あちらさんから連絡してくるよ」

「……え?」



コチコチと、穂高の部屋の目覚まし時計が音を立てるのをクッションを抱きしめながら聞くともなく聞いていた。

時刻は13時を回っている。

雪音を迎えに行くタイムリミットまであと4時間。

陣野先生のほうから連絡してくるって、どういうことなんだろう?

穂高が、リビングのソファに座るわたしの前にカチャリ、とコーヒーカップを置く。

「ね、ほんとに連絡くるかな?」

テーブルの上の青い園田先生の携帯が気になってさっきからじっと見つめたままのわたし。

「くるよ。暗示を解くには暗示をかけた本人の園田が必要だからね」

その時、ブルルッと携帯がテーブルの上で震えだし、着信音が鳴った。

受信画面には、『沙耶』の文字。

「ほ、穂高っ…!」