穂高はスッとわたしの前に出ると、哀しげな瞳で言った。

「『国枝沙耶は、園田芳樹を愛していない』。」

ザワっと風がわたしと穂高の間を通り過ぎる。

わたしの長い髪が、今にも穂高に届きそうなほどに揺れている。

「『愛してない』って……。そんな。園田先生は沙耶を愛していたんじゃないの!?」

「だからだよ。沙耶を愛しているから、彼女が拒絶反応に苦しむのを見ていられなかった。拒絶反応で娘まで殺してしまった沙耶を救おうと、彼女に拒絶反応のもとである自分を愛していない、娘を殺したのも沙耶ではなく園田だ、という暗示をかけた。そして……恐らく、彼女を救うためにイヴの欠片を断とうと、自分自身に『鬼になる』という暗示をかけたんだ」

「…園田先生があんな鬼みたいになったのも…全部、沙耶のため…?」

「…たぶんね。きっと暗示を解く鍵があるはずだ。……そうか、わかった!」

「な…なに!?」

穂高が瞳を見開いてわたしを見た。

「赤い薔薇だ!薔薇は彼女と園田の何かの想い出に関わっているんだ。だから陣野は薔薇で彼女の暗示を解こうとしていた。彼女が園田を愛していた記憶を甦らせれば、彼女は再び拒絶反応を起こし、『死』へと近づく」

「じゃ、じゃあ、沙耶の暗示を解かなければ彼女は死ななくて済むってこと!?」

「…それは、彼女の意志次第だ。沙耶が果たしてとちらを望んでいるのか。生きることか、それとも……園田への愛を貫くことか…これだけは、暗示が解かれてみないことには……わからない」

……沙耶が望むこと……。

わたしはどうしようもなく、切ない気持になった。

「愛している」人に愛してると言う時には、死んでしまうかもしれないなんて……。