穂高が携帯でレイと連絡をとりながら歩く。

「レイ、陣野と沙耶の居場所はつかめたか?……そうか、わかった」

立ち止って穂高が振り返る。

「まだだってさ。陣野の家ももぬけの殻だし、学校にも、病院にも園田の家にもいないそうだ」

「陣野先生…いったいどこに?まだイヴの欠片には手をつけていないし、沙耶をどうするつもりなんだろう?」

「手をつけたくても、つけられないのさ」

「…え?」

穂高のはっきりと芯の通った声音に、わたしは瞳を見開いた。

「彼女は、園田の暗示にかかっているんだよ。その暗示から彼女が抜けられないうちは、『イヴの欠片』も反応しない。オレたちは陣野がアザにキスをするだけでイヴを吸収できると思っていたが、やっとわかった。欠片をもつ本人の死を望む意志がなければ、キスをしても欠片は反応しないんだ。完全に『生』への未練が断ち切られた時にこそ、『イヴの欠片』は反応するんだ。逆に『死』への未練が完全に断ち切られたときには、イヴの欠片が消滅するっていうのは古河泉水で実証されただろ?」

『生』と『死』への未練……。

その合い間で揺れ動いている間は、『イヴの欠片』は反応しない。

「園田先生はいったい沙耶にどんな暗示をかけたの?」