牙が、肉に食い込む感触。

その瞬間、口の中に広がる甘い甘い香り。

「……んっくん……」

その甘さに、気持ちがはやる。

「神音…ゆっくり…花弁の香りを嗅ぐように、愛する者のキスを味わうように…」

陣野先生がわたしの背中を優しく撫ぜながら、甘く囁く。

「…ん……くん……」

ゆっくりと喉に染み込むように流れてくる甘い血。

「…そうだ。神音。いい子だ」

先生の声が、わたしの肌に直接触れるみたいに、甘い香りを漂わせる。

先生の喉に押し当てられたわたしの唇と、先生の喉が熱くとろけるような熱を帯びていく。

「……ハ…ァ……」

先生の吐息が愛しすぎて、わたしも『鬼』になってしまいたいという想いが一瞬頭をかすめた。

「神音…お前ももう、立派な吸血鬼だよ」

牙を抜き、唇から血を滴らせたまま、先生を見上げた。

「……陣野…先生……」

「………んっ」

口の周りの血を舐めとるように、先生がキスをする。

わたしの首の鎖と、先生の首の鎖が、チャリ…と音をたてて交わる。



………わたしたち、囚えられた『鬼』みたいだよ……先生………。