「……雪音!!!!」

わたしははじかれたように立ち上がり、なおも雪音を抱えながら歩いている女性に駆け寄った。

「待って!その子、わたしの妹です!!」

女性は前を見たまま、ピクリと体を震わせ立ち止った。

「雪音を…返してください」

「ゆき…ね…?」

か細い、雨に消え入るような声を発しながら、女性はまだわたしを振り返りもしない。

青白い顔で唇を震わせながら、表情のない声で呟く。

「この子は…わたしの麻耶(まや)です」

咄嗟に、わたしは怒りに声を震わせながら雪音の手を掴んだ。

「雪音です!!帰ろう、雪音」

雪音は、微かに笑うと、眠るように瞳を閉じた。

「…雪音!?」

バシャっと水をはじく靴音が女性の目の前で響いた。

「沙耶、その子を彼女に返しなさい」

先生は、女性の前に立ちはだかるように立っていた。

その口調も、瞳も、射る様に鋭かった。

………沙耶……?

さっき先生が花束を置いていった病室の名前が甦ってきた。

……………『国枝沙耶』。

沙耶と呼ばれた女性はぼんやりとした顔で先生を見上げると、急に顔に血の気が戻ったように表情を変え、「……あ……」と声を震わせた。

震える女性の腕から、雪音をグイっと抱き上げる先生。