「先生、なんでここに……?」

「病院にいたのをたまたま見かけてね。血相を変えて出ていくから追ってきたんだ。いけなかったかな?」

そう言う先生は、頭から足先まで全身ずぶ濡れだった。

「先生…気づいてたんだ。やっぱり…敵わないや…」

その瞬間、ぶるっという身震いとともに、激しい悪寒と、痛いほどの渇きが襲ってきた。

「………っ」

……だめだ、苦しい。

「……せ…先生…く…るしいよ……」

荒い息をするわたしの体を包み込むような力強い腕。

「…せ…んせい…?」

先生の長い漆黒の髪が、わたしの顔に被さるくらい近い距離で、先生は切なげに唇を開いた。

「神音、私はお前につらい仕打ちばかり与えるだろう。だが、『これ』が終わったら、私はどんな罰も受ける。お前が望むなら、私はお前の裁きを受けるよ。私の『生』も『死』も、お前とともに、ある」

…………先生…………?

朦朧とする意識のなかで、優しくわたしに語りかけるような先生の声を聞いた。

先生は、自分の牙で自分の腕を咬むと、血を吸いだし始めた。

「………せん…せい………うっ…」

唇に覆いかぶさる先生の冷たい唇。

瞳を見開いたまま見つめる雨降る空が、やけに温かく感じた。