「今日は……『ちょっと』優し、かった」

首をひねりながら答える雪音。

『ちょっと』?

雪音の先生を表す言葉の変化に、眉根を寄せた。

雪音は、6年前の事件から、人間を見る目が厳しくなった。

うわべでは優しくても、本心が違う人間には、雪音はすぐに気づく。

敏感に、人間の心の奥底を感じ取る。

もしかしてこれが、雪音の吸血鬼としての能力なのかもしれないと、ふと思った。

雪のように純真な雪音の能力。

『ちょっと』と言った雪音の言葉が引っ掛かる。

あんなに優しい笑顔をした先生なのに、雪音の心に映ったのは『ちょっと』の優しさだけ。

彼が吸血鬼かどうか、調べなくちゃ。

雪音の手を引き、廊下を早足で歩く。

穂高とレイに知らせれば、きっと調べてくれるはずだ。

その時、ふと、視界の端に、肩までの黒髪をなびかせた男性の姿が映った。

思わず、立ち止り、その行方を追う。

…………あれは……!!

別の病棟に入っていく背の高い黒のシャツを着た男性。

「……………陣野先生!?」