穂高が現れてから1週間。

わたしは学園の中に、穂高の姿を探したけれど、「浅見穂高」という生徒がこの学園にいないことがわかった。

…確かに彼はうちの学園の制服を着ていなかったし。

うちの学園は、男子は濃紺のブレザーで、女子は赤いスカーフのセーラー服だった。

スラリとした長身に、黒のシャツがとても似合っていた。

なんて想いだしているうちに、おでこのキスを想いだし、顔を赤くする。

夕飯に添える炒めものを作ろうとして油を切らしていることに気づいた。

包丁を持ちながらキッチンから雪音のいるリビングに顔を出す。

「雪音(ゆきね)。油切らしちゃったから、お姉ちゃんちょっと買い物言ってくるね。パパは遅いから一人でちゃんと留守番してるのよ」

「……うん」

ソファに座っている妹の雪音が、無表情でこちらを振り向き、一言だけ返事をする。

雪音は、6年前の事件以来笑わなくなった。

言葉も少なになり、何を考えているのか、家族でさえ読み取るのが難しい。

わたしも雪音も、6年前の事件のことを全く覚えていない。

パパから聞かされた話によると、ママとわたしと雪音の3人が一緒に通り魔に遭い、ママは亡くなり、わたしの額に傷が残り、雪音だけが奇跡的に無傷だった。

でも、ママの死には疑問が残る。

……ママには自殺の節があったという記事をどこかで読んだ。